余計な一言

余計な一言

「面接試験は良かったかもしれないがまだ決まったわけではないよ。もし、筆記テストが悪かったら大学には入れないんだよ。」

受験勉強をしていた娘の気を引き締めようと私は言った。

その数日後、私は彼女の目が腫れているのに気が付いた。そして、娘は学校を数日休んだ。皆勤をずっと続けていた彼女にとって欠席は珍しかった。しかし、「彼女は受験勉強で疲れているのだろう」としかその時は思わなかった。

それからしばらくしたある日の午後、妻から連絡があった。娘が精神科医にかかったと言った。鬱病だった。彼女は大学の受験勉強が心配で夜眠れなくなったのだ。「一生懸命勉強勉強しても成績が上がらない。自分に自信が持てない」と彼女は言った。

余計な一言だった。引き締めるつもりで言ったのが、それが彼女に余計なプレッシャーを与えたのだった。彼女が一生懸命勉強している事を知っていたにもかかわらず、不必要な一言で彼女を追いこんでしまったのだ。罪悪感から「出来る事をすればでそれで十分だよ。」と言ったが、彼女は何も返答せず、疲れた目で私を見た。夜遅くまで電気がついている娘の部屋の前を通ると、胸が痛んだ。

私は職場の同僚の話を思い出した。彼は成績が良くない自分の娘を厳しく責めたら、登校拒否になり、学校を辞めてしまったそうだ。彼は「信頼関係が一番大切だから、子供を信じ、どんな時でも励まし、彼らが自分に自信を持てるように育てる事が大切だと」言った。「時には厳しく接する事も必要かもしれないが、子供が幸せに毎日を過ごしている事が一番大切なのだ」と。

「娘との関係をもう一度、やり直したい。」という同僚の一言が胸に響いた。

娘の事も全然分かっていないのに、偉そうにアドバイスしている自分がおかしかった。彼女は毎日、夜も眠れない程不安を抱えていたというのに…                         

彼女は「自分の妹が私みたいになって欲しくない」とも医者に言ったそうだ。不安で苦しんでいても、自分の妹の事を考えている娘のやさしさが心にしみた。

彼女は心身ぼろぼろとなりながらも、毎日夜遅くまで試験勉強に打ち込んだ。彼女は受験勉強から何を学んだのだろうか?自分に対する自信を取り戻しただろうか?  彼女が卒業式で卒業証書をもらった時、そんな事をふと思った。 

来週、大学の入試結果が発表される。

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コメント

  1. 言葉は「消えない」から。
    失言を撤回しても発言したという事実は消えないから。
    扱い方はとても難しいものですね。

    だけど同時に。
    言葉は使い方次第では誰かをとても勇気付けられるから。
    大切な人に愛を示し、多くの人に希望を与えることもできるから。

    言葉の持つ力をいい方向性に活かせるように心を傾けたいです。

    虐待サバイバーでもある私は、
    過去三十三回もの精神科入退院歴を持っています。

    精神科病院にはやはり親との関係に挫けたことをきっかけに、
    心を病んだ若者がたくさん入院していました。

    その多くが社会復帰できなかった事実を思うと。

    親がよかれと思った言葉でも、
    子どもにとっては致命傷を負わせる、
    鋭いナイフに成り代わったのかと…。

    それでも子どもの心の傷が理解できない親も少なくはない中で。

    お嬢様のご様子や妹さんを大切にされる姿など、
    親御さんとして細やかに見守っていらっしゃるその愛が、
    きっとお嬢様にも伝わっていらっしゃる事と信じたいです。

    お嬢様の入試がいい結果となりますように。
    そしてKazさんとご家族の確かな回復が叶いますように。

    前田穂花

  2. 前田様、コメント有難うございました。

    娘を引き締めようとして言った言葉でしたが、完全に逆効果となってしまいました。幸い彼女は大学にも受かり、今は元気に毎日を過ごしています。

    これからはもっと、言葉のナイフに気を付けたいと思います(特に身内に対しては…)

    良いお年をお迎えください。

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