Mさんへの手紙

Mさんへの手紙

沈丁花の香りの中で

今年は早いもので2月というのに、沈丁花の花がもう香り始めました。
河津桜の花も満開です。

貴女とお別れしてから、もう一年になりますね。
以前よくあなたとばったり出会った公園前の道を歩いていると、またあなたに会うのではないかという気がします。
「あらお元気?お買い物なの?」などと声をかけられそうな感じがするのです。

こういうことを言うと、あなたはきっと笑って「お若いのにいつまでもクヨクヨしていちゃダメよ」と言いそうです。

たくさんの友達が皆祈っていた

引っ越してきたばかりの私に声をかけてくれ、お漬物を分けてくれたのが仲良くなったきっかけでした。あれから何度も何度も一緒にお茶をしたり、お花見やランチに出かけたり、楽しい思い出がいっぱいありますね。

でも、仲良くしていたのは私とだけではありませんでした。同じ年頃のご年配の方達はもちろん、ご近所中の小さいお子さん達やママさん達にも声をかけて仲良しになっていましたね。スーパーの人も、郵便屋さんもみんなあなたが好きでした。

あなたの友達には外国の方もいれば、車椅子の人もいました。
庭の柿の実をお裾分けしてもらった時は、そんな色んな方達の分も配ってきて、と頼まれて、恐る恐るピンポンしたこともあったっけ。あれは私にも「彼や彼女達と仲良くなってほしい」と言う気持ちがあったんじゃないかと、今気づきました。

この間、あの外国出身の方と偶然会ったときには、2人で手を取ってあなたとの思い出を涙ながらに語り合いました。彼女は、あなたと2人で撮った写真を取り出して見せてくれました。
「急に痩せてしまったから心配した」「怖いなら一緒に病院に行ってあげると言ったのに」って言ってましたよ。

入院する前、最後にお会いした時は、沈丁花の香る玄関先で私の手を取って「必ず元気になって帰ってくるから」って言いましたよね。最後まで病気と闘おうとしていたんですよね。

私だけでなく、色んな人が心配していたし祈っていたけれど、あなたはあっという間にいなくなってしまいました。

電話番号を書いた紙

いつも小さな身体で、元気にニコニコ歩いていましたよね。会うと色んな話をしてくれましたね。お料理のレシピやお孫さんの自慢に加えて世界情勢の話まで。頭の回転が早くて、口の遅い私は突っ込むタイミングを失って、びっくりするばかり、でもいつも笑顔で楽しい時間でした。

そんなあなたが、ある日うちに来て、電話番号を書いた紙をなくしたから教えて、と言ってきた日のことはよく覚えてます。「最近忘れん坊さんになっちゃったのよ」

あなたは忘れちゃったかもしれないけど、私はそれから何度も何度も電話番号をメモに書いてお渡ししたんですよ(笑)。
メモを渡して、楽しくお喋りをして、帰り際にまた「電話番号を教えて」と言われた時は、どうしよう…と思ったけど、「ここに書きましたよ」とメモを見せたら、悪びれるでもなく大笑いして、それで終わりでした。
歳を取ると色々あるのよ、と。
本当にそうですよね。それで落ち込まなくてもいいんですよね。

あれだけ何度も電話番号を書いたけど、用事があるときはうちまで来た方が早いからって、あんまり電話してくれませんでしたね。
具合が悪くなってからは、何かあったらすぐに電話してって言ったのに。

お葬式のお手伝いをした時、ご家族に連絡先をお知らせしようとしたら、「shippoさんの電話なら分かりますよ。部屋のあちこちに貼ってあったから」と聞いたときは、本当に涙をこらえるのが精一杯でした。

ちっちゃい灯台

認知症になった後も、色んな人があなたのところに相談に来ていましたよね。「話を聞いてあげるだけしか出来ないんだけど、みんな話したいんだよね」っていってましたね。
私ももう一度、色んな話を聞いてもらいたいです。

でも、一年経って、心の中で問いかければ、あなたの声が聞こえるような気もします。

あなたはまるで、地域の中に小さく灯って、ゆっくり回る灯台のようでした。遠くまでは照らせないけれど、温かい光がゆっくりと回ってくるたびに人をほっとさせる。

人見知りの私はとてもあなたのようにはできないけれど、私も少しだけ、小さなともしびを灯しておきたいと思うこの頃です。

報告する

関連記事一覧

コメント

  1. この投稿を拝読して、まず脳裏にこの曲が浮かびました。
    「The Storm」川村カオリ
    https://www.youtube.com/watch?v=hwHNUw3xSQ0

    この曲のテーマがshuppoさんのトピックにマッチしていたことに併せて、
    私自身の記憶にもシンクロしたからです。

    カオリちゃんは…生きていれば現在49歳。
    そろそろこのスロハピにお誘いできるお歳だったことでしょう。

    先に鬼籍に入っていたBF氏(前田の友人のひとりだった)が、
    本来なら40歳になるはずだった日の朝…つまり彼氏さんの誕生日に。
    乳がんと闘っていた38歳のカオリちゃんは天国にお嫁に行ってしまいました。

    なんだか…あたしだけが遺されていく。
    このどうしようもない感じに胸を締め付けられつつも。

    生きている自分に出来ることって何があるんだろう。
    自問自答を繰り返しつつ、今日も生きている私がいます。

    50歳を過ぎると、親しい方の死にも次々に直面します。
    悲しみ以上に、自分の人生の在り様を問われている気がして、
    恥じたり身の引き締まる思いがしたり…苦しくなったり。

    カオリちゃんやBF氏の分まで立派に生き抜きます、なんて。
    烏滸がましいことをとても申し上げられません。
    ただ、私は私のままでいられますように。

    お友達のMさんのご冥福と、
    shippoさんのお心落としが無いよう、心より憶えてお祈りいたします。

    穂花

  2. 穂香さん コメントありがとうございます。

    「The Storm 」聞いてみました。
    本当にぴったりですね。泣きそうになりました。

    ちょっと離れたところにお引越ししたけれど、そのうちまた会える、と思えばいいのかも。

    Mさんは90歳近い年齢の方で、周囲では「よく頑張った」という感じの受け止めもあるのですが、やっぱり寂しいのは寂しいです。

    と同時に、無名で、特に何かボランティアとかではないけれど、自然と周りを照らしてくれる人は貴重だったな、と思って、こちらに書かせていただきました。

    先日見たドラマ「人の心を癒すということ」で、
    ”人の心を癒すというのは、「誰も一人きりにしないということ」だ”
    というセリフがありました。
    Mさんは、自然体でそういうことができる人だったなあと思います。

    追悼なら「仏」のカテゴリだし、ボランティアなら「仕事」のカテゴリだけど、どっちにも当てはまらない感じがして、また「その他」のカテゴリにしてしまいました。
                                             shippo

  3. shippoさん、お久しぶりです。
    穂花です。
    おかげさまで肺炎の症状は治まりましたが、
    まだまだ体力が回復せず、ウダウダな毎日をやり過ごしています。

    今を超えられるようにがんばります。

    ところで。
    拙投稿のコメント欄で、shippoさんのこちらのトピックを紹介させていただきました。

    https://slowhappy.jp/2020/03/13/%e4%ba%94%e5%8d%81%e6%ad%b3%e3%81%8b%e3%82%89%e3%81%ae%e4%ba%ba%e7%94%9f%e3%80%82%e8%87%aa%e5%88%86%e3%82%92%e8%aa%8d%e3%82%81%e3%81%9f%e5%85%88%e3%81%ab%e3%80%8c%e7%9c%9f%e3%81%ae%e3%80%8d%e8%87%aa/

    事後報告をご容赦ください。
    また桜の咲く季節、お友達のMさんと心で感じ合えますように。

    穂花

  4. 穂花様

    わざわざご連絡ありがとうございます。少しお元気になられたようで、良かったです。どうぞお大事になさって下さいね。

    Mさんは笑顔だけで何となく回りを幸せにしてしまう人でした。
    前向きな生き方で、こちらが落ち込んでる時に「大丈夫よー」と言われるとそんな気がしてくる。

    陳腐な言葉のようですが、心の中に生きている、というのはこういうことを言うのかな、と思います。声も、こういう時どんな風に言ってくれるのかもまだまだ私の中に残ってるなあと思います。

コメントするためには、 ログイン してください。