おばあちゃんの話しはとりとめがない

おばあちゃんの話しはとりとめがない

ヨームも終活

私より7つ歳上の早苗さんから電話がありました。4人は会社の元お同僚で、1番年長の早苗さんとは4歳離れています。私が1番若いのですが、まあ、ここまでくれば、ほぼ同い年。

この春に4人で旅行を計画していました。コロナの自粛要請が出る一週間まえです。仲良しのおばあちゃん4人で、久々の草津温泉に浸かろうと、計画していたのですが、ギリギリに中止になってしまい電話も3か月振りです。

「またすぐに行けるようになるから」
諦めるしかなくてそれぞれ健康に注意しましょうね、と電話を置いて以来のことです。

みんなどうしているかなあ、気にかけながらも身動きが取れなくて、運動不足で4㎏も体重が増してしまいました。

めずらしく朝から電話が鳴りました。
第一声は誰だかわからなかったんですよ。

『もしもーし、生きてるう。ごはん食べたの』
「いま食べたわよ、あなたは?」
『おいしいね、生きてるー』
「まあ、元気よ、あなたは?」
『さなちゃん楽しい』
 さなちゃん? 会話の違和感に心臓がギュッと縮みましたよ。まず声に張りがある、妙に響く、間髪入れずに話すし。

呆けた? どうしよう?

早苗さんはひとり暮らしです。まだパートでスーパーの惣菜パックを作る仕事をしています。

「早苗さん、どっか具合悪いの? 判る?」
 いつかこんな瞬間に遭遇するとは思っていました。さなちゃんに限らず、4人のうちの誰か。

『もしもーし、私よ、判る?』
 あれ! さっきと声が違う!
「だれ?」
『あなた呆けなすったか? あれは鳥、知ってるでしょ。ヨームのおひでさん』

ああ、そうだ、さなちゃんは鳥を飼っている。ずーっとまえからいた筈だ。

『ドッキリよ』
ヨームのおひでさんは声色も真似てしまうんだ。いつか旅行に行ったとき、どんなに利口な鳥か自慢してたっけ。
 
ところでと早苗ちゃんはひとしきり笑ったあとに切り出した。

もしも、自分が倒れたら、鳥を飼ってくれないかと言う。真剣な声だ。

『あなたが楽しめるように、歌も教えてるし、名前も憶えた、飼い方もきちんと書いてあるから、お願い』

いや、縁起でもない。うっかり返事をしたら、安心して寝こんだりして。

ヨームと言う鳥はかなり長生きで、すでに20歳は超えたけど、60年も生きることもあるらしい。私は猫を貰ったばかりです。

「今度の旅行でさ、引き継ぎリスト作ろうか! 」
ペットを老人施設に持ち込むわけにもいかないし、友に託すなら安心です。さなちゃんは喜んでくれて、私もいい考えだと我ながらほっとしました。

兄弟なんて、ここまでくれば、他人と変わらないし。気心が知れた友人の方が頼りになります。だけど、4人のうち最後の1人になっちゃうかもしれない。あとの2人は娘がいるし、実際にはペット問題はさなちゃんと私です。確かに誰かにお願いしなくてはいけないのです。

終活を意識してからすでに一年。するべきことはまだまだあります。ひとりなら気が付かなかったことも、年に二回の温泉で情報交換できるのも、ありがたいです。

旅行も終活のうち

最近、走馬灯のように、幼なじみの顔やクラスメイトの顔が浮かびます。
生まれてこの方、ずいぶんとたくさんの人に出会ったけど、別れるときにはなんとなくある日「またね」と言って分かれてそれっきりになってしまっている友もいます。

歳をとってできた友だちは貴重だと、みんなそれぞれの胸のうちにあるらしい。互いに感謝の言葉が出るようになりました。すると、お互いを思いやる気持ちも出て来るので、居心地がいいのです。

まさか予想だにしていなかったコロナウィルス。
半年に一度の旅行だけど、ずいぶん心の支えになっていたのですね。
さなちゃんのとりとめがない話しでも笑って元気が湧きました。

最近みんな終活に熱心だけど、終活なんて、それほどきっちりしなくてもなんとかなりますよ。それならたまには会って話したですね。

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